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■103 一人ぼっちの冬 2004/12/01

 「翔太は一人ぼっちでさびしくないの?」里美がそんなことを口にした。そろそろ12月にさしかかろうというこの時期、ヒトリモノ連中はこぞってパートナーを求め徘徊する。僕はここ数年、そういうことからは遠ざかっている。この仕事に就いてからというもの、年末年始はいつも大忙しだ。12月に入ったら成人式のあたりまでは修羅場が続く。おかげで就職した年の冬から僕はずっとヒトリモノだ。

 22の冬、恭子と暮らしていたアパートは、あの冬に喧嘩別れしてからすぐに引き払った。「私といるより仕事が大事なの?」そんな問いかけは結婚してからされるものだと思っていた僕は、軽い目眩を感じたものだった。そしてこの瞬間、僕と恭子は決定的に価値観が合わないという事実が理解できた。
 その冬から僕はずっとヒトリモノだ。そんな僕に里美は「さびしくないの?」なんて聞いてくる。そんなこと、考えもしなかった。とにかく忙しくて考えてる暇なんて無かった。だから素直にそのまま口にした。
 「そんなこと考えもしなかった。考えてる暇なんて無かったし。」
 ふぅん、とでも言いたげな表情と、軽いため息と共に里美は言う。
 「翔太は強いんだね。あたしはさびしくてしょうがないの。クリスマスだから、とかそういうのじゃないけど、一人で家にいるとたまらなくさびしい時があるの。そんな時はホント誰でもいいから一緒にいてほしいの。」そう言いながら里美は僕の目を見る。妙に目が潤んで見える。これがトラップだったら秀逸だな、なんて考えながらいい人ぶった台詞を口にする。
 「あんまりそんなこというもんじゃないよ。お前、安売りしてるみたいに聞こえるぞ。」ぶぅ、という効果音が聞こえてきそうなくらい、里美は頬を膨らませた。
 「ひど〜い。あたし安売りなんかしてないもん。あたしは翔太だけに売り込んでるんだよ?」酔いが回ってきたのか言い方がストレートになってきている。そんな里見にほだされたのか、僕の口も軽くなっていく。
 「さっきの言葉な、あれちょっと嘘。本当はたまに寂しいときもある。そんな時はこうやって、酒を煽って眠るのさ。」これも半分は嘘だが、今はこれでいい。こんな嘘も言ってるうちに本当になるものさ。
 「僕は一人ぼっちだけど、きっと今年もさびしさを感じる暇もないほど忙しいと思う。けど、きっと、クリスマスイブや大晦日なんかは、布団の中でさびしさを感じるんだろうな。」
 そして里美は僕の予想どおり、里美の予定どおりの言葉を口にした。
 「大丈夫よ、一人じゃなければさびしくないから。」

「一人ぼっちの雑文祭」参加作品
http://www1.odn.ne.jp/mushimaru/zatsubunsai.htm



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