引越奇譚

2007.09.05 Wednesday 23:59
たつや


 「今から運び出します。」
 うむ、よしなに。

 そこから暫くしてのこと。
 「もしもし、便利屋ですが」
 うむ、何用じゃ。
 「実は…車に乗りません。」



 おい。


 お前はそれでもプロかと。いみじくもプロならば、己がよしと言った条件を満たして然るべきだろう。それをどの面下げて「入りません」だコノヤロウ。

 と思ってはみたものの、言うてもしょうがない。電話の向こうで言っている「本来だったら○○円コースですよコレ」というセリフに対する非は何れにあるのだろうかという疑問も無い訳ではないが、ここで争っても目的は達成されそうにない。我ながら随分と丸くなったことよなぁ、と懐古をはさみつつ、問うてみた。
 「それでどうすればいいんですか。」
 「雑誌を省けばどうにか…」
 思わず溜め息を漏らしそうになったが、ぐっと堪えて返答する。
 「ではそのようにしてください。」
 これで、雑誌類の処分作業は己の担当となってしまったのだ。

  教訓:ものぐさはツケとなって返ってくる。

 もう本当に、この駄目人間に言いきかせるより他ない。結局のところこれは、ものぐさの尻拭いなのだ。究極的な原因は己にある。如何に仕事の見積もりもできない駄目便利屋が相手だろうが、そもそも、元を正せば、根幹は己の駄目さ加減ゆえなのである。

 八月二十九日。退去期限まで、あと三日なのであった。


 結局二十九、三十、三十一日と、仕事を終えてから、残りのものを運ぶなり捨てるなり部屋を拭くなりと夜な夜な作業を繰り返し、どうにかこうにか部屋を空け渡せる状態にしたのであった。


 九月に入り、比較的落ち着いて仕事が終わってからの時間を過ごしている。しかしまだ負債は若干あり、私としては負債の雑誌を資源ゴミとして処分することが今週の大きな課題なのだった。

 広くて快適な新居への道程は、遠い。





 …あくまでフィクションなんだけどね。うん。

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