引越奇譚

2007.09.05 Wednesday 23:59
たつや



 そういう諸々の事情の末、気が付けば退去期限が間近になったにも関わらず、退去すべき空間には処分を待つ品々が軒を連ねていたのだった。まああくまでフィクションだが。

 で、そのフィクションの部屋のフィクションの塵芥を見て頭を抱えたフィクションの私は、フィクションにおける有耶無耶装置、市井の便利屋なるものにとりあえず相談を持ちかけてみた。なにせこれらを処分するには、どう足掻いてもマンパワーが足りんのだ。いっそこのあたりで一千万パワーのバッファローマンくらいの助力を仰ぎたいところではあるが、いかんせんいくらフィクションとは言え便利屋等が関の山なのである。

 便利屋に時間がないというたところ、随分と早くに見積もりに来てくれるとのこと。早いことはありがたい。そんなわけで依頼した翌々日には、便利屋と私が、塵芥を目の前にして話をしておったのだった。

 「これですか。」
 「これなのだ。」
 「これはまた…ありますねぇ…」
 そんなことはわかっておる。その「ありますねぇ」が無くならんからこうして呼んでおるのではないか。

 「えーと…これだと大体…○△□円くらいですかねぇ。」
一番最初の見積もりを聞いた瞬間、漫画だったら鼻血が出ておったことであろう。いくらフィクションとは言え驚くべき数字だ。その後様々な交渉等を経て、どうにか折り合いをつけて、その次の日には全て運び出してもらう算段となった。まあ折り合いがついたと言っても相変わらずフィクションだと思い込みたい…もとい、フィクション金額であったわけだったのだが。

  教訓:ものぐさはツケとなって返ってくる。

 何度も言わんでもわかっとるわいと自分で言いたくもなるが、分かっていないからこうなった訳であり、そこに弁解の余地は無い。まあ恨むべきはフィクションの中の、かつての己である。

 そして運命の日。あの鼻血が出そうな金額を提示しよった便利屋が全てのモノを運び出す日である。幸いなことに当日の立ち会いは必要ないとのことで、私はのうのうと仕事に出ておった。すると午後になって便利屋から連絡があった。

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